「ん〜……スクランブルエッグは失敗するほうが難しい料理なんだけどね。」
目の前の謎の物体Xを見て溜め息をつくアクィ。横のルビィは半泣きである。
「お昼はピザトースト作ってみようか。具を乗せてチンだから、大丈夫でしょ。」


〜Rolling Stone , Reachable Hand〜


影守家に3人目の居候が増えて、3日。今、その3人目の居候は1人目と台所で頑張っている。
曰く、『居候してるのに何の役にも立てないなんて!!』ということで料理を覚えたいらしい。
「で、アクィ?進展はあったのかしら?」
「ん〜……とりあえず、切ってもないのにピザトーストの形が丸いのはなんでだろ。」
「ルビィ、頑張り過ぎなくても良いのよ?どうせ新だってアクィに家事全部やらせてるんだから。」
居候してるのに何の役にも立たない…というか、わざわざ役に立ってやる気が無い女性が笑う。
「け、けど!せっかく置いてもらってるのに……」
半泣きで訴えるルビィに、目を見合わせて苦笑するアクィとオペラ。
「ま、本人のやる気を尊重しよ?ってわけでオペラ、買出しお願い。」
「私を体よく使おうなんて良い度胸ね、アクィ。」
「あ、じゃあ僕の代わりにルビィに料理教えてくれる?」


「えっと……スーパーで食材と、薬局に行って胃薬……胃薬?」
買出しメモを片手に街を歩くオペラ。どうやらアクィのあの脅しに屈したらしい。
「アレ、ひょっとして新に食べさせでもするのかしら……あら?アレは……」
何かに気付いて立ち止まる。見れば、商店街の福引に挑戦する……
「確か、新の同級生の……忍くん、だったかしら。」
惜しいけど違います、オペラ。シノブはシノブだけど、志惟である。アルバイター兄弟の四男。
カランカラァン!! 鐘が鳴った、ということは何かが当たったようだ。
「おめでとうございまぁす!!暗輝宝石店提供のエメラルド大当たり〜!!」
「え?あ、ありがとうございます!…お米が良かったんだけどなァ……」
ぶつくさ文句を言いながら、エメラルドを受け取って歩き始める志惟。
その背中を見送って、オペラが少しだけ早足で歩き出した。


「新、帰ってる?エメラルドが見つかった!」
玄関ドアを開けて即、早口で喋るオペラ。ちょうど学ランを脱ぐところだった新が固まった。
「……マジか?誰が持ってた?」
「あの新の同級生の……忍くん?が、福引で当ててたのよ。」
「志惟が?判った、取り敢えず今日の夜にでも見てみるよ。」
2人が頷き合う。その直後、台所からアクィの溜め息とルビィの泣き声が聞こえた。
「……まだやってるの?」
「ルビィが作ったモン、律儀に全部2人で食べてるらしいぜ?アクィ!!」
「兄や?どしたの、何か用?」
「今夜、ウチのクラスメイトの家に忍び込んでくる。一緒に来るか?」
新の言葉にアクィが数秒考え……首を、横に振った。
「ルビィと美味しい紅茶でも淹れて待ってるよ。」
「……そっか。」


「志惟の家は、望の家と違って警備員は居ないんだけどな……」
少し遠くで、松田家のアパートを見て苦笑する。
松田家はアルバイター兄弟だ。誰がいつ居ていつ居ないのか判りづらい。
「確か水曜は和白さんがファミレスで吹護さんがコンビニ、志惟が留守番なんだっけ。」
三男は家出中で、義務教育中の弟2人のために毎日誰か1人は高校以上が留守番してるはず。
頭の中で見取り図と侵入経路を思い浮かべて……快盗Aが、動き出した。


「それにしても、暗輝宝石店……」
エメラルドを提供したという宝石店を気にするオペラ。
その背後からは、『クッキーが黒コゲ』だの『紅茶が青い!』だのと聞こえる。
「……紅茶が青かったら『紅』茶じゃないわよねェ。」
「しみじみしてないで手伝ってよ、オペラ!!」


「……何でだ?」
快盗Aが、松田家の兄弟たちを起こさないように気配りしつつ部屋を見回す。……が。
「どこにも……エメラルドが無い?!」

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