「……これが、タクトの目的だったの?こんなことのために、僕らは利用されたの?」
托人が、背後からの声に振り返る。そこにあるのは、今にも泣き出しそうな『マイク』……奏の顔。
「だったら、何のために僕は……!!」
「……そうだね。確かに僕は、君たちを利用した。否定はしないよ。」
托人の言葉に、奏がますます顔を歪ませる。その視線の先には……巨大な装置に入った、スコーカー。
奏が右手を振り上げ、力いっぱいに壁を殴りつけた。托人が少しだけ顔を心配そうに曇らせた。
「怒るのは尤もだけど、自分の身体が壊れるよ。」
「……今更、優しくすんなよ!僕は……!!」
「オーケストラを、抜ける?……残念だけど、君の自由だよ。君のしたいようにすると良い。」
托人の言葉に、奏の瞳からとうとう涙が零れる。それはまるで、要らないと言われたようで。
奏が托人に背を向けた……直後、その身体を誰かが抱きしめる。突然現れた青年に、驚愕する托人と奏。
「お前が要らねェなら、オレが貰っても良いよな?」
「…スクラッチ・ショウ!!どうやってココに……!!」
「少年。オーケストラを赦せないなら、オレと手を組まないか?オレには、お前が必要だ。」
ショウの言葉に、奏が揺れる。ふと振り返った托人の表情を見て……奏は、頷いた。
「悪いな托人、コイツは貰うぜ?……今日からオレ達は、NOISEだ。」



〜Talking Painful Memories 6〜


「…さ、そろそろ昔話は終わりにしようか。今度は、未来の話をしよう。」
ぱんぱんっ、と2回手を叩いて話を打ち切る托人。煌華が小さくため息をつく。
新春が托人の顔を見て、机に頬杖を突いた。
「未来に、何かアテがあんのかよ。」
「野暮用を済ませるから、1ヶ月待ってくれる?そしたら今度はこっちから、NOISEの本部に殴り込みをかける。」
「たった4人で?!」
思わず力一杯ツッコミを入れる新春。煌華と快斗は取り敢えず静観。托人が楽しそうに笑った。
「死にに行くような突撃だ。……僕1人で行くことも考えてるけど。」
「冗談、今さら置いてけぼりはナシだ。オレも行くぜ。」
「僕も行くけど……その1ヶ月でNOISEが増員したり、本部を移転する可能性は?」
「いや煌華、響の場合はそれは有り得ないよ。」
托人の言葉に、快斗と新春も頷く。……NOISEのリーダーを何だと思っているのだろうか。
「ショウなら、判らないけどね。」



夜。元・初葉と秩太の部屋。窓から外を見ている托人の、その背中を睨みつける快斗が居た。
「オーケストラの理念に則って自分たちからは攻めない、違ったか?」
「……いや、その通りだよ。主義を曲げようって話さ。」
快斗が托人に声を掛けると、托人が何気ない調子で答える。……快斗が、小さく舌打ちした。
托人が苦笑しながら、快斗を振り返る。一瞬だけ目が合って、すぐに快斗に逸らされた。
「スコーカーには、伝えないつもりか。」
「今頃、シンバルが話してると思うよ。彼は嘘吐けない子だしね。」
「……タクトは、卑怯だ。」
「そうだね。…だから僕は君に、ハープの居場所を隠してる。」
快斗が唇を噛むのを、ただ見やる托人。数秒して、快斗がふっと息を吐き出した。
「…兄さんが、新しい生を自由に暮らせているのなら、それで良い。」


「……新春。」
「どーした?眠れないのか、煌華。」
「眠る必要が無いんだよ、僕は機械だから。」
和室の畳に寝転がる新春に、煌華が声をかける。少しだけ迷う素振りをして……新春の隣に、腰を下ろした。
「答えたくなければ、答えなくても良い。自分の疑問を整理したいんだ……聞いて、くれるかな?」
「…ああ。」
「カナデを素体にして、『マイク』を作ったって言ってたけど…他の犠牲者はどうなったの?」
ちらりと、新春が横目で煌華を見る。そこにあるのは、疑問ではなく確信だった。
気付いている。新春が、小さく息を吐いた。
「マスターはメンバー全員で弔った。ハープは『マイク』のカナデと同じ、試作品『カメラ』になった。」
「……スコア、は?」
「スコアは……『マイク』の失敗を鑑みて、生前の記憶は削除して……一号機、『スコーカー』になった。」
部屋の中の空気が、変わる。煌華が息を呑んだのが伝わってくる。新春が、少しだけ勢いをつけて起き上がった。
「元々ゆるく派閥が出来てたタクト派とスコア派が、スコアの遺体をいじるってので決裂してなぁ。」
「僕たちスリースピーカへの風当たりの強さは、それも理由か。………新春は、どう思うの?」
「お前に出会えて良かったと思ってるよ、『煌華』。」
新春が、ぽんぽんと煌華の頭に触れる。煌華が、新春と目を合わせた。
「お前がスコアの人生まで背負うことはねェよ。一ヵ月後、どうするかは自分で決めて良いんだぜ。」
「……行くよ。この耳で、真実を知るって決めたんだ。」

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