「悪いけどさ。この2人は見逃してあげてくれないかな?」
スコアが、シンバルとバイオリンの頭をポンポンと叩いて、笑う。……視線の先には、倒れ伏すマスター。
マスターを殴り飛ばしたショウが、その言葉に少しだけ顔を歪ませる。その顔は、嫌悪。
「オレは自己犠牲ってのが大嫌いなんだよ。オーケストラ・マスターの次男のお願いでも、却下だ。」
「ケチだなぁ、ショウ君。こんなに小さい子を殺せるの?」
「小さかろうが、オーケストラだろ。っつーかお前と3つも違わないんじゃなかったか?」
ショウの言葉に、スコアが苦笑する。2人を庇うように立った。
「じゃあ、力ずくで逃がすよ。僕が時間を稼ぐから、兄さんたちを呼んできてくれる?」
スコアの言葉に、シンバルとバイオリンが頷く。それを見て、スコアも少しだけ笑った。
「何があっても、諦めるな。頼んだよ、シンバル!バイオリン!」
「「……スコア!!」」



〜Talking Painful Memories 5〜


「ヒビキ!!」
「……シンバルと、バイオリンか。」
「大変なんだ、タクト見てない?!」
廊下を全力疾走していたシンバルが、響の姿を見止めて急ブレーキをかける。
シンバルと、その後ろから追いついてきたバイオリンの顔を、響が交互に見やってからため息を吐いた。
「……タクトなら、あっちで倒れている。」
「倒れてる?判った有り難う、行こうバイオリン!!」
「待て、シンバル。」
慌てて通り過ぎようとするシンバルの首を掴むバイオリン。自分の背後を指す響を、睨みつけた。
「友達が倒れている割に、冷静だな。……お前、ショウの共犯者じゃないよな?」
「お前こそ冷静だな。……ご名答、オレたちはNoiseだ。」
「なっ……ヒビキ、テメェ!!」
シンバルが両手を開き、響に向かって一拍。瞬間、響の髪が数本空を舞った。…頬からも、一筋の血。
それを軽く拭って、響がシンバルを見た。バイオリンも、呆気にとられて手を離している。
「……ワケアリが集まる、か。なるほど、コレがシンバルの『ワケ』か?」
「バイオリン!タクトを頼む!!」
「…わ、判った!」
バイオリンが慌てて走り去る。シンバルが響を睨みつける。響がシンバルを見て、笑った。
「オーケストラを傷つける奴を、オレは赦さない!!」
「威勢は買うが…お前じゃあ俺には勝てないよ、シンバル。」


「よーう、響。ケリは、ついたのかい?」
「ああ。ショウの方こそ……スコア?」
響が、ショウに近づく。その足元に倒れている2人の顔を見て、少しだけその瞳が揺れた。
ショウはその響の揺らぎには気付かないフリをして、挑発的な笑みを湛えて振り返る。
「お前の狙いはマスターだけじゃなかったのか?」
「こりゃ正当防衛ってモンだ。」
「どっちかというと、正当防衛だったのはスコアの方だと思うけどなァ。」
ショウの向こうの廊下から、ゆっくりとハープが歩いてくる。響が小さくため息を吐いた。
「誰かと思えば、ハープか。今、お前と闘うつもりは無いぞ。」
「折角だけど、僕にはあるんだよ。……君は友達を傷つけた。」
「響はやりたくない、お前はやりたい。じゃあ、オレが相手してやるよ。ちっと昂ってるから、さ。但し!」
ビシッと、効果音のつきそうな勢いでハープを指差すショウ。ハープが右手を掲げる。
「手加減できねェから、死ぬ覚悟しとけよ。」
「死ぬ覚悟が要るのは、君の方だよショウ。」




「………結局、僕が目を覚ましたときには全て終わってた。マスター、スコア、ハープ、カナデの4人が死んだ。」
托人が、そう言って言葉を閉じる。ダイニングには、重苦しい沈黙が流れている。
煌華、新春、快斗が一言も発することができないのを横目で見て、托人がお茶を一口すすった。
「僕の視点からじゃ判らない情報があるのは、物語のお約束だと思って理解してくれると助かるよ。」
「そういうメタ視点のツッコミは要らない。……聞いて良いかな。」
「僕に答えられることなら、ね。」
煌華が托人に視点を合わせる。…托人なら、煌華の疑問なぞ疾うに予測できているのだが。
「本部で会った『潮騒 奏』は、いったい何なんだ?」
「……アレは、僕が作った『マイク』だよ。」
「ワケアリって言っても、オーケストラ全員が戦闘能力があったわけじゃないからな。戦力を作る必要があった。」
托人の言葉を、快斗が継ぐ。新春が、何かを言おうとして……そのまま言葉にせずにお茶を流し込む。
「カナデの身体から作った、君らの試作機。うっかり嫌われちゃって、NOISEに入っちゃったんだけどね。」

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