「あ〜ああ〜、あっちは始めちゃったかな〜?さて、それじゃあオレも……」
「ああ、やろうか。」
ひとりごちるショウの背後から、声が掛けられる。ショウが振り返ると、マスターが立っていた。
「やーマスター。久しぶりだなァ。」
「相変わらず意味も無く人にケンカ売る子だね、ショウ。」
「嫌だなァ。一見、意味の無いことにこそ『芸術』ってもんはあるんだぜ?」
マスターの背後から、バタバタという足音が聞こえる。……もう少しすれば、誰かが顔を見せるだろう。
にやりと笑ったショウが、両手を大きく広げて構えた。
「『全ての武器を楽器に』だっけ?先に言っとくけど、アンタと判り合うつもりなんて無いからな。」
「……音楽の基本は理解と調和だと思うけどな。」
「音遊びに、理論武装なんて要らねェよ!!」



〜Talking Painful Memories 4〜


「なんで……なんで殺した!!カナデは、お前の……」
「クローン、だよ。」
「弟だろッ?!」
響の胸を掴んで、たけぶタクト。響が小さくため息を吐いて、タクトの腕に触れた。
タクトが目を見開いて、その腕を振り解く。……響がもう一度、ため息を吐いた。
「『全ての武器を楽器に』だったな。…オーケストラって、こういうときでも『話せば判る』とか言うのか?」
「……話してみろよ。お前が、最愛の弟を殺さなきゃいけない理由って奴を!!」
倒れ伏すカナデを一瞥して、響が空を仰ぐ。睨みつけるタクトを無視して、瞳を閉じた。
「最高の教育って何だと思う?俺と奏の父親は、それを失敗しないこと、だと考えてた。」
「それが、どういう……まさか。」
「相変わらず、物分かりが良いよなァ、お前は。」
タクトが、カナデと響に交互に目を走らせ……その目が、驚愕に揺れた。気付いたのは、『クローン』。
同レベルのピアノの演奏能力、変なクセのついていないカナデの腕……オーケストラに連れて来られた、ワケ。
「確かに、俺で1回実験しとけば、奏には最高の教育が出来るよな。……それが俺は、ずっと嫌だった。」


「響はずーっと弟クンを恨んでたみたいでなァ。オーケストラでは良い兄弟に見えてたのか?」
「ゆっくりで良いから、傷が癒えてくれれば……と、思ってたんだがな。お前がちょっかいかけるから。」
ショウの大振りの打撃をバックステップで避けるマスター。そのまま裏拳に派生した一撃も避ける。
その直後、マスターの後ろからスコア・シンバル・バイオリンの3人が顔を出した。
「父さん!」
「お前ら、手ェ出すなよ!バカの説教は親父のゲンコツって相場が決まってんだから。」
「ゲンコツ?……ああ、お前の能力は息子にあげちゃったんだもんなァ?音楽家って、どうしてこう勝手かね。」
少しだけ顔を歪めながら、ショウが呟く。マスターが小さく苦笑して、拳を構えた。
「勝手なのはお互い様だろ。」
「そうだな。勝手で悪いが……ケジメをつけなきゃならんのさ、オレも響も!!」
瞬間、2人の頬にクロスカウンターが決まる。一瞬の拮抗の後に、マスターが壁に叩きつけられた。
「ケリつけようぜ、楽。……お前の作った『オーケストラ』を、オレの作った"Noise"がブッ潰す!!」


「音楽家ってのは、勝手だよな。最高の音楽を作るために、自然を切り捨てちまうんだ。」
「…100%否定はしないさ。けど!君の主張はやっぱり過激だ!!」
「過激で良いさ!!」
捻じ曲げられた自然。切り捨てられた自然。……タクトの言葉は、響には届かない。
「Noiseの理念は『切り捨てられた音の救済』だ。……いつか言ったな、オーケストラは嫌いだよ。」
響が、タクトに近づき…その腹を殴りつける。タクトが小さく呻いてうずくまった。
その様子を見て、響が殴りつけたばかりの自分の右手を見た。
「…まだ、安定しないか。殺すつもりだったんだが、偶然に助けられたな。」
「ヒビ、キ……!!」
「そうだ、皆に伝えてくれよ。Noiseは拒まない。……連絡先は変えないから、来たくなったら来いって。」
響が、もう一度カナデの死体に目をやって……そのままタクトに背を向けて、廊下の向こうに消えた。


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