「……よく似た兄弟だよねェ、ヒビキとカナデって。」
「兄弟だからなァ。」
控え室で、お互いに音楽雑誌を眺めるタクトとヒビキ。窓の外では、カナデが遊んでいるのが見える。
「兄弟だから似てるってわけでもないでしょ。僕とスコアとか、ハープとバイオリンも似てないよ。」
「あ〜……ちょっと重い話になるけど、カナデは俺のクローンだからさ。似てて当然っつーの?」
ヒビキの言葉に、タクトが視線を上げる。ヒビキが、窓の外のカナデを見て苦笑した。
それを見て、タクトも窓の外に目を向ける。カナデがこちらに気付いて、手を振っているのが見える。
「……深いトコまで、聞くべき?」
「いや、今は聞かないでくれると助かるな。」
「じゃあそうする。」
それだけ言って、再び雑誌に目を移すタクト。ヒビキが少しだけ笑って、持っている雑誌を閉じた。
「入って数ヶ月経つけど、タクトと『トモダチ』やってると気楽で助かるよ。」
「褒めてないでしょソレ。」
「…いつか話すときがきても、お前なら受け止めてくれそうな気がするからさ。」



〜Talking Painful Memories 2 〜


「…タクト。やっぱこの曲はピアノ要るよ。」
「ん〜……父さんも悩んでるんだよね。ヒビキもカナデも、ピアノの腕は素晴らしく、かつ同レベルだし。」
楽譜を読みながらのハープの言葉に、タクトが表情を曇らせて答える。タクトのやや後方でスコアも苦笑する。
「まぁ、僕の編曲が下手なのは認めるけどね。」
「え、あ、いや、そんなつもりで言ったんじゃ無いんだけど。」
「スコア、ハープをいじめないの。…ま、確かにヒビキにもカナデにも、そろそろ音楽の輪に入ってもらいたい。」
タクトが小さく悪態を吐いて、周囲を見やる。……そして首を傾げた。つられてハープとスコアも周りを見回す。
「……ヒビキはどこ行ったの?」
「アレ、ホントだ居ないや。」
「もうすぐ練習時間なのにね。」
「ま、今やってる曲はヒビキ参加してないけどね。ちょっと探してくるよ。」
ため息と一緒に、タクトが練習室を出る。スコアとハープが顔を見合わせて、苦笑した。

「アレ?指揮者が居ねェな。」
「……タクトなら、ピアノ候補その1を探しに行ってますよ。」
練習室に顔を出した『父さん』に、打楽器を調整していた青年が答える。
「あー、なるほどな。教えてくれてサンキュー、ティンパニ。」
「……オーケストラ・マスター。…こないだ言ったこと、覚えてますか?」
青年…ティンパニの言葉に、マスターが苦笑しながら頭を掻く。ティンパニが小さくため息を吐いた。
「後継者問題、か。オレが引退した後、タクトとスコアをどうするか。」
「オーケストラ内部でもタクト派とスコア派と居るでしょう。下手やると組織に摩擦がおきますよ。」
「判ってるよ。…まぁ、オレが引退するまでには何とかしなくちゃな。」


オーケストラ本部建物の裏手。小さな森になっているそこに、ヒビキは居た。そこにタクトが駆け寄ってくる。
「タクト?あぁ、もうすぐ練習時間か。悪い、すぐ行くよ。」
「なんでこんなトコに…何か見えるの?」
「見えるんじゃないよ、聞こえるんだ。……小鳥のさえずり。オレが世界で一番好きな音だ。」
そういって微笑むヒビキに、タクトが僅かに首を傾げる。ヒビキが苦笑して、空を仰いだ。
「防音の練習室に居たら聞こえないだろ。小鳥のさえずりだけじゃない、風の音も、葉擦れの音も。」
「…自然の音、か。楽器の音ばかりの生活だから、あんまり馴染みないな。」
「……オーケストラは、嫌いだよ。」
ぽつりと、ヒビキが呟く。タクトが振り向くと、真剣な目をしたヒビキと視線が合った。
「自分たちの音のために、自然の音を切り捨ててるように思う。」
「…その辺りは、価値観の問題か。」
ふぅと、小さくため息を吐くタクト。ヒビキの纏う雰囲気も、少しだけ柔らかくなる。
「ヒビキと『トモダチ』やってると、驚くことばかりだよ。」
「……悪い。お前のことは、大好きだよ。」


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