「……これが、タクトの目的だったの?こんなことのために、僕らは利用されたの?」
托人が、背後からの声に振り返る。そこにあるのは、今にも泣き出しそうな少年の顔。
「だったら、何のために僕は……!!」
「……そうだね。確かに僕は、君たちを利用した。否定はしないよ。」
托人の言葉に、少年がますます顔を歪ませる。その視線の先には……巨大な装置に入った、スコーカー。
少年が右手を振り上げ、力いっぱいに壁を殴りつけた。托人が少しだけ顔を心配そうに曇らせた。
「怒るのは尤もだけど、自分の身体が壊れるよ。」
「……今更、優しくすんなよ!僕は……!!」
「オーケストラを、抜ける?……残念だけど、君の自由だよ。君のしたいようにすると良い。」
托人の言葉に、少年の瞳からとうとう涙が零れる。それはまるで、要らないと言われたようで。
少年が托人に背を向けた……直後、その身体を誰かが抱きしめる。突然現れた青年に、驚愕する托人と少年。
「お前が要らねェなら、オレが貰っても良いよな?」
「…スクラッチ・ショウ!!どうやってココに……!!」
「少年。オーケストラを赦せないなら、オレと手を組まないか?オレには、お前が必要だ。」
青年の言葉に、少年が揺れる。ふと振り返った托人の表情を見て……少年は、頷いた。
「悪いな托人、コイツは貰うぜ?……今日からオレ達は、NOISEだ。」



〜Mission Trojan Horse 8〜


初葉とネオンの視線が、ぶつかり合う。不意に、ネオンがふっと表情をゆるめた。
「初葉君。僕は君とは闘うつもりはない。だから、ここはお互いに見逃さないかな?」
「お前が五黒鍵の1人だって知った上で、見逃せると思うのか?」
「うん、思わないよ。」
笑顔のまま、ネオンが告げる。初葉がその右手をネオンへと向けた。
「けど、僕は『トモダチ』を壊したくないんだよ。」
「壊れるのは、テメェだろ!!」
初葉の破壊の音色が、ネオンへと届く。…しかしその音は、ネオンにかすり傷すら作らずに流れていった。
「ちょっと荒削りだけど、良い音色だね。」
「防人と同じ防音能力……かと思ったけど、違うな。」
「違うよ。僕の能力はあくまで、『音を穏やかにする』ことだ。君の力は効かないよ。」
くるりと初葉に背を向けて、来た通路をまた戻っていくネオン。その背中に、初葉の声がかかった。
「なんでお前が、NOISEなんだよ……!!」
「…ただの、逆恨みだよ。僕のイトコが、楽器で傷ついたからだ。」
ぽつりと言葉を残して、ネオンが通路の奥に消えた。初葉が、右手で迷宮の壁を殴る。
……そして、開いた血だらけの右手を、迷宮の壁にピタリとつけた。


「……まだ、君は僕を恨んでいるのかな?奏。」
「当たり前だろ…僕を傷つけたのは君だ、タクト。」
飄々とした態度だった奏の顔が、険しく曇る。その鋭い眼光が、托人を…そして、煌華を射抜いた。
「いや…むしろ君かな?スコーカー。」
「そんなことより。お前には聞きたいことがあるんだよ、奏。お前だけは、ショウと連絡を取ってるはずだ。」
快斗が、奏に右手を向けながら言葉を発する。奏が、目線を快斗に移して微笑んだ。
「その右手の能力は、誰のお陰だと思ってんの?ショウ君は僕らの救世主だ。」
「諸悪の根源の間違いだろ。」
「おいおい快斗、悪なんて居ないよ。……僕らとNOISEの闘いは、正義と正義が相容れないから起こってるんだ。」
托人の言葉に、全員が振り返る。托人が、にっこりと笑って……そして、新春を指差した。
「新春。君の音で、迷宮の壁に3箇所亀裂を入れてくれるかな?」
「……了解。」
新春が、刃を乱発する。その幾つかが奏のすぐ隣をすり抜け……周囲の壁に亀裂を入れる。
その直後、迷宮全体を異常な揺れが襲った。
「この揺れ……初葉の振動牢霧?!」
「みんな、逃げるよ。この迷宮、崩壊するから。奏も早く逃げてね。」
奏が小さく舌打ちして、背中を向けて走り出す。少しだけ息を吐いた快斗と、苦笑する托人も駆け出す。
それに続いて新春も走り出そうとして……そして、煌華を振り向いた。
「……煌華?」
「……僕は、何も知らないんだね。」
「知らないなら、聞けば良いんだよ。」
背後からの声に煌華が振り返る。顔に涙の跡が残る盲…健介が、ゆっくりと立ち上がった。
「僕も知らないし、僕はもう関わらないつもりだけど、これだけは言える。知らないなら、聞けば良いんだ。」
「……そうだね。君は、『聞く』ことで世界を広げてきたんだった。」
「……視界も啓けたし、ね。」
健介が笑う。それを見て、煌華も頷いた。一部始終を横で見ていた新春が、2人の腕を掴む。
「さぁ、お話は終わったか?じゃあそろそろ走るぞお2人さん!」


「初葉の破壊とシンバルの切断のコラボ……」
「このビルの地下部分は完全に崩壊しそうだね。秩太は逃げなくていいの?」
「そういう響は?」
「僕は……どうしようかな。」
瓦礫の崩落していく通路の中で。秩太が響に目をやると、響は小さく微笑んだ。
「君と2人でココで死ぬのも、物語的には意外で面白いかもね。」
「……僕は壊れても直せるけど、響は死んだら治せませんよ。」
「そうだね。……じゃあ、どうする?」

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