神林健介……『盲』が、光を映さない瞳で煌華を睨みつける。
深水煌華……『スコーカー』が、真っ向からその瞳と向き合った。
「NOISEは俺を救ってくれた。何も見えなくても生きて、闘える力をくれた。」
「NOISEは君を救ってなんかない。死ぬかもしれない戦場に行かせることを、救うなんて言わない!!」
盲が一気に間合を詰め、左足で蹴り。煌華が右腕で受け止め、盲の軸足を払う。
受身を取って体勢を整えようとする盲の眼前に、煌華の右手が翳されていた。
「……君の、音に対する鋭敏な感覚は確かに脅威だよ。けど、体勢を崩しちゃえば避けられない。」
「…殺せ。NOISEの一員として死ぬなら本望だ!!」
「……やっぱり、NOISEは君を救ってなんかない!」
煌華が右手を握り締め、距離を取る。盲が怪訝そうな顔で立ち上がった。
「神林健介。君、見たトコ僕より年下だよね。何歳?」
「……今年で、10歳になった。」
「10歳の子に死ぬ覚悟をさせるなんて、『救う』とは言わないよ。…だから、仕切りなおしだ。」
煌華が、握り締めた右手を盲に向けた。盲が、小さく身構える。
「ロボットが人を救うところを、君に見せてあげるよ。」


〜Mission Trojan Horse 7〜


雑音が嫌いだった。大切な音が、聞こえなくなってしまうから。
後天的に目が見えなくなった俺は、聞こえる音で周りを知るしかないのに。
(…くそ、また先生の説明が聞こえなかった。)だとか。
(信号の色のアナウンス、聞き逃した。)だとか。
世界は、雑音に満ちていて。とても、とっても生きにくい。俺を救ってくれない世界。
「要らない音なんて無いんだよ。よく耳を澄ませば、『雑音』は君の世界を広げてくれる。」
俺を、救ってくれたのは……


盲の襟首が、煌華の左手に掴まれた。慌てて盲がその手を引き離そうとするが、もう遅い。
「しまっ…!!」
「敵と相対してる状況で、一体何を考えてたのさ。」
「……友達だと思ってた奴が、目が見えなくなった俺のこと『めんどくさい奴』って言った。」
手を引き離すのを諦め、ぽつりと呟く。それは、盲の……神林健介の、トラウマ。
「リーダーは言ってくれた。要らない音が無いように、俺も要らない奴じゃないんだって。」
「そこは同意するよ。君は要らない子なんかじゃない。…だから僕は、僕なりの救い方をする。」
煌華の空いている右手が、盲の左頬を思いっきり平手打ちした。
「痛ッ…!何す……え?!」
驚いた顔の盲の、その瞳が、煌華の顔に焦点を結んだ。それを察知して、煌華がほほ笑む。
「僕の音は、相手の脳内信号を操る。異常を引き起こすこともできるし……」
「目が、見える……!!」
「……異常になった回路を、正常に戻すこともできる。」
盲……神林健介が、涙を流して膝をつく。煌華が、その頭をポンポンと叩いた。
「健介君。『要らない人なんて居ない』と知ってるなら、人を傷つける道には進まないで。」
「スコー…カー……」
「ピアノが弾けるならさ。今度は君が、音楽で、誰かを救って欲しい。」
止まらない涙と共に、健介が深く頷いた……その、直後。
「あー、盲ちゃんがNOISEを裏切ろうとしてるー!!」
「…新手?!」
「奏!!」
後ろから聞こえた声に、慌てて煌華が振り返る。小さな…健介より小さな子がそこに立っていた。
その顔は、見覚えがある。……本来ならば、在り得ない姿がそこには在った。
「……潮騒、響?」
「ヤだなー、スコーカー。さっき盲ちゃんが『奏』って言ってたでしょー?」
「いや、でもその顔…それに声も……」
「僕は響の弟。いや、正確にはクローンなんだよ。」
ニコニコ笑って少年…奏が言う。その直後、鋭い音と共に奏の足元に亀裂が走る。
煌華が少しだけ背後を見やると、新春と快斗……そして、托人が立っていた。
「シンバル君にバイオリン君、それに……タクト、久しぶりだねー?」
「ああ、久しぶりだね奏。」
奏が、うんうんと頷く。新春が、煌華と健介を庇うように前に立つ。
「震羽も吠も殺した。もう、お前らがココに居る意味はねェはずだ。」
「……ら?」
「…奏は基本的に、NOISEのリーダーの傍を離れることはないはず。……来てるんだろ?」
快斗の言葉に、奏が笑う。それは明らかに、肯定を表す笑み。
「リーダーは、依織と跫太郎を探してるんだよ。」
「リーダーって……まさか。」
「…うん。多分、そのまさかだよ……スコーカー。」


「依織を殺したのか、ウーファー。僕が来た理由が無くなっちゃったな。」
「この声……!!」
初葉が、ゆっくりと後ろを向く。その視線を受け、ため息を吐いて苦笑する少年。
「なんで、お前がここに居るんだよ……ネオン!!」
「…僕も五黒鍵だからだよ、初葉君。」


「容赦ないね、ツイーター。それ、跫太郎?」
「……ええ、今はただの肉塊ですが。」
秩太が、背後からの声に答える。振り向けば、よく知った顔がそこにあった。
「……貴方もNOISEですか、潮騒響。」
「そう……俺がNOISEのリーダーだよ。改めて宜しく、秩太。」

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