「……嬰、変、本位からの通信が途絶えた。」
車でオーケストラ本部に向かうNOISEの3人。後部座席の少年の言葉に、運転している青年が笑う。
「あー、やっぱり托人相手じゃあ勝てないか。まぁ、数分でも足止め出来ただけで上出来かな。」
「タクトが戻ってくる前に、オーケストラの連中を蹴散らしつつウチのメンバーを回収?」
「うわ、厳っし。」
青年が笑う。それに後部座席の少年がため息を吐き、助手席の少年が頭を抱える。
「僕らの移動時間なんかも考慮すると……10分あるかないか、くらい?」
「10分かぁ。……ちょっとキツいね、急ごうか。」


〜Mission Trojan Horse 6〜


「まぁまぁ楽しめたし、もう終わりにしても良いかな?ウーファー。」
「……あ〜、だったら。もうひとつ面白いモン見せてやるよ、エオルス。」
初葉が床に右手をつき、その上から左手を重ねる。そして少しだけ前傾姿勢を取った。
「さっきのはスピーカとしての奥の手。今度は、ウーファーとしての奥の手だ。」
「…まさか、いやでも可能なのか?」
「予想、できたか?」
にやりと笑った初葉の姿が、消える。その直後に、依織の身体が壁に叩きつけられた。
その胸に、初葉の左拳が貫通していた。
「カウンターウェイトを解除し、右手の破壊音による振動の反作用で、自分の身体を吹っ飛ばす。」
ずるり、と、依織の身体の力が抜ける。初葉がその腕を引き抜くと同時に、床に崩れる。
それを冷たい眼で一瞥して、初葉がため息を吐いた。
「奥の手、『吼狼衝』。じゃあな、五黒鍵。」


血の海の中で、2人の人間が闘っている。正確には片方は人造人間だが。
全身から血を噴き出す跫太郎と全身に返り血を浴びる秩太。……結末は既に、見えている。
「こっちの攻撃は、治療機能で無効化されちゃうし。……勝てない、なぁ。」
「僕には感情が無いからね。卑怯って言われるような手も利用してしまえる。」
再び、タップを身体に受けながらの打撃。跫太郎の足から力が抜け、その場に倒れこんだ。
秩太が跫太郎の膝を踏み砕いた。苦痛に跫太郎の顔が歪むが、秩太の顔はまったく変わらない。
「……感情は無くても、判断力はあるよね。」
「今は、貴方を殺す、それだけだ。」
「君に呪いをかけよう。オーケストラは、自分たちの演奏のために僕以上の防音を張る。」
跫太郎が、身を投げ出して笑う。その額に、秩太の足が乗せられた。
「…そうして切り捨てられた音を、僕らは拾うんだ。……君も、自由になれよ。」
ぐしゃりと、跫太郎の頭が潰れた。


「『見逃してあげる』とか偉そうなこと言ってた割には、戦闘には不慣れみたいだね。」
「まァそりゃ、牢屋番ですので?」
「但し。盲目だからか……音に対する感覚が異常に鋭敏だ。」
目の前でへらへらと笑う盲に、ため息を吐く煌華。全身に傷を負う煌華に対し、盲は無傷。
……煌華の傷は振動牢霧によるものだろうが、即ちそれを盲は無傷で回避したということだ。
「……その超感覚が、NOISEに居られる理由かな?」
「スコーカー。あんた、勘違いしてるよ。NOISEは、闘えない奴が切り捨てられる場所じゃない。」
盲の顔つきが、変わる。閉ざされたままの目に、力が籠もった。
「『要らない』って言われて切り捨てられる奴を、救う場所がNOISEだ!!」
「……障害者差別とか、そういう話題は苦手なんだけどなァ。」
盲が距離を詰めて煌華に殴りかかった。素人同然の拳は当然ながら避けられるが。
「リーダーは、俺にピアノを教えてくれた。目が見えなくても周りのことを知る術を教えてくれた。」
よろけた盲が立ち上がる。少しだけバックステップで距離を取って、それに相対する煌華。
「ロボットには判らないだろうけどさ……NOISEは俺を、神林健介を救ってくれたんだ!!」

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