「……な〜んかさ。嫌な予感がすると思わない?オーラちゃん。」
托人の言葉に、少し後ろを歩く青年がため息を吐く。托人が振り返って笑った。
「やっぱり、僕は本部に戻るよ。オーラちゃんが言ってた『見せたいモノ』って何だったの?」
「…オーケストラが、NOISEに負けるトコロ。」
まったく笑顔を崩さない托人に、青年……オーラの方が顔を歪める。この余裕は、崩せない。
「ビオラの櫻楽ちゃん。悪いけど、今日はスリースピーカがオーケストラ本部に行ってるよ。」
「NOISEとしての名前は嬰木だよ……その、全て計算通りっつー顔が1番ムカつくぜ、指揮棒!!」
オーラ……改め、嬰木が、指を鳴らす。どこからか、2人の青年が托人を取り囲んだ。
「ちっと計画は狂ったけど…3vs1だ。変見!本位田!相手はオーケストラの大将だ、油断すんなよ!!」
「だーいじょーぶ。君たちとの闘いなんて、どーせオールカットされちゃんだから、さ。」


〜Mission Trojan Horse 5〜


「エオルス音の出所は、その鋼鉄の紐か。何それ。」
「跫太郎を宙吊りにしてた拘束具。」
バックステップして、紐を鞭のように振るう依織。発生したエオルス音を、右手の音波で相殺する初葉。
そのまま距離を詰めようとするのを、その足元に鞭を振るって依織が牽制した。数十mの間合で睨み合う。
「近付かせないよ。まぁもちろん、接近戦でも負けないけどさ。」
「ナルシストめ。」
「自信は、今までの努力があるからさ。じゃなきゃこんな細い廊下で鞭なんて扱えないよ。」
にっこりと笑って鞭を振るう。数撃のエオルス音を、横道に入って避ける初葉。
依織が小さく口笛を吹いた。……初葉が、出てこない。
「出てこないなら行っちゃうよ〜?僕には君と闘う理由なんてないんだから、さ!!」
振り向きざまに鞭を打つ。まさに背後から攻撃しようとしていた初葉の顔にヒットした。
少しだけ怯んだ隙に、初葉の腹に蹴りを見舞う。そのまま再びバックステップで距離を取った。
「ちっ、良い手だと思ったのに。」
「だから言ったろ?接近戦でも負けないって、さ。」
「しゃーない。そんじゃあ、奥の手といきますか。」
にやりと笑った初葉が、迷宮の壁に触れる。その直後、迷宮そのものが鳴きだした。
『破壊の音波』が、空間全てを満たす。傷だらけになった依織を見て、初葉が笑う。
「奥の手、『振動牢霧』。周囲の壁や床を振動板として使うことで、破壊を増幅する。」
「シンドローム、ねェ。確かに、学校のグラウンドじゃあコレは出来ないだろうね。」
身体中から血を流しながら、依織が笑う。そして、鞭で壁を打ち据えた。
「周囲の壁を振動板として使うってことは、その瞬間に壁に衝撃を加えれば音を乱して無効化できる。」
「なっ…!」
「図星でしょ。一撃必殺の奥の手は、二度目はもう使えないんだよね。」
「……セーカイ。」
少しだけ苦々しそうに、初葉も笑みを返す。依織が、鞭を握りなおした。
「面白いものを見せてもらった……けど、それだけだ。」
「流石に、五黒鍵ってバケモノだな。」


「…一つ、君たちの言葉を正しておこうか。音には『回折』という、障害物の裏に回りこむ性質がある。」
一歩、間合を詰める跫太郎。身構えてそれを見る秩太。跫太郎が左足を、高く掲げた。
「長いモノを振るう必要がある依織と違って……僕には、『入り組んだ迷宮』は不利にはならないよ。」
左足を、振り下ろす。タップに合わせて生まれた3つの衝撃波が、秩太の身体にヒットした。
「ぐっ…!!な、なんで3つも衝撃が……?」
「そりゃ、3回タップしたからに決まってるだろ?」
「一回の振り下ろしで、3回もタップできるの?」
「そりゃ、努力してますので。NOISE五黒鍵なめんなよ。」
にやりと笑う跫太郎に、ため息を吐く秩太。お互いに、千日手になることが判りきっている。
闘う方法も無く、かと言って相手を無視する方法も無い。故に2人でココに留まっているのだ。
「ま、僕のタップじゃ致命傷は与えられないよね。なんせ君はサイボーグなんだし。」
「僕の能力はあくまで治療だし……今のを見る限り、格闘でも勝てる見込み低いなァ。」
そういって、秩太がもう一度ため息を吐いた……直後、周囲の壁から大音量が鳴り響いた。
その瞬間、秩太と跫太郎の身体に無数の傷が生まれる。跫太郎が小さく舌打ちした。
「何コレ、急に何が起きたの?」
「コレは…初葉の振動牢霧!周囲の全てに破壊を謳わせる奥の手だ。」
秩太が手早く自分の身体に治療の音波を浴びせ、傷を塞ぐ。そして再び身構えた。
「ラッキーだ。これなら、傷を狙えば勝機はある!」
「うわ、卑怯な戦法。」
「闘いは爽快であってはならない。『全ての武器を楽器に』、陰湿な闘いが僕らの真骨頂だよ。」
殴りかかる秩太。バックステップで避ける跫太郎。着地と同時にタップを飛ばす。
それを身体に受けながら前に拳を突き出し、秩太も跫太郎の傷口を抉る。血飛沫が、飛んだ。
「『全ての武器を楽器に』が、オーケストラの理念?」
「らしいけど……それが?」
「NOISEより軽いな、と思ってね。」
跫太郎が、その顔から笑みを消した。2人の視線が、鋭くなる。
「僕らの理念は、『切り捨てられた音の救済』だ。」

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