「計画通りなら、もう盲ちゃんたちが依織と跫太郎を解放してるハズだけど。」
走る車の後部座席で、PCを操作しながら呟く少年。直後、PCからアラームが鳴る。
「え?アレ?僕なにか操作ミスった?」
「違うな。吠からの緊急警報だ。快斗やシンバル辺りに気付かれたかなぁ?」
運転している青年が笑いながら言う。内容はちっとも笑いながら言うことじゃない。
慌てる少年に、運転している男が苦笑する。
「車の中で慌てたって、出来ることは安全運転でタクト楽器店へ行くことだけだ。」
「あ〜もう!嫌な予感がする、警察に見つからない程度に急いでくれる?」


〜Mission Trojan Horse 3〜


「まぁ、結果なんて闘う前から判りきってたことだけどさ。確かにお前は打楽器隊の幹部だ。」
震羽が呟く。その前には、全身傷だらけで立ちすくむ新春。
「けど、オレはその打楽器隊のリーダーだぜ?」
「序列で、実力が決まるかよッ!!」
「確かに、序列じゃ実力は決まらねェ。……実力で序列が決まるんだ。」
新春が震羽を睨みつけ、手を打ち鳴らす。放たれた刃は、先程と同じく雲散霧消した。
かすかに、耳を澄ますとモーター音のような、虫の羽音のような音が聞こえる。
「身体を震わせる能力、だっけ。くっそ、モーターめ。」
「いやいやトレモロって言ってくれよ。攻防一体の良い能力だろ。相手の音は掻き消すし…」
震羽が間合を詰める。避け切れなかった新春の肩に打撃。そのダメージを見て、新春が舌打ちした。
「こっちの攻撃はナチュラル『二重の極み』だ。」
「漫画ネタやめろよ、厨二病。俺その漫画読んでねェんだよ。」
「名作だぞ、読めよ。それと厨二はお互い様だろ、パーカッション・アーツ使い。」
「『打楽器隊式格闘術』な。パーカッション・アーツっつってんのはアンタだけだろ。」
肩を押さえながら、皮肉ぶった笑みを浮かべる新春。それを見て、震羽も笑う。
新春が手を打ち鳴らそうとした一瞬に、震羽がその両手首を掴んだ。
「しまっ……」「パーカッション・アーツ、『トライアングル』!!」
新春の顎に飛び膝蹴り、それと同時に能力を発動する震羽。両手首と顎にダメージ。
新春が、倒れた。起き上がろうとするその頭を踏みつけ、冷たい眼で見下す震羽。
「お前じゃオレには勝てねェよ、シンバル。『オーケストラの特攻隊長』らしく、死んでいけ。」


「僕は、目的を果たすまでは死ねないんですよ、快斗さん。」
「お前らNOISEの目的?……ああ、あの理想論理念のことか。」
「ええ。オーケストラの『全ての武器を楽器に』も、大層な理想ですが。」
廊下の突き当たり。追い詰められた形の吠と、追い詰めた形の快斗。
吠が、思いっきり空気を吸う。それを見て、快斗が慌てて防御体勢を取った。
「發!!」
「くっ……!!相変わらずの威力だな、『肺喝猟』!」
快斗の言葉に、吠が軽く微笑む。そして、もう一度大きく息を吸い込んだ。
放たれた第二撃に、バックステップで距離を取る快斗。声が届いた直後、掻き消される。
「アレ、束縛するだけじゃないんですね。」
「これだけの大音量、流石に完全に相殺は出来ないか。」
「大声だけが僕の取り柄ですから。如何に五黒鍵の音でも、消し飛ばしてみせます。」
吠の言葉に、快斗が眉を寄せる。事実、吠の攻撃は大雑把だが威力も射程も高い。
廊下の突き当たりという場所も吠の死角を消している。……つまり、現状は。
「追い詰められたのは、むしろこちらの方…か。」
「背中を向けて逃げますか?」
「まさか。お前に自由に行動させるほど、俺は愚かではない。」
快斗が、束縛の音色を照射する。吠が三度目の大声でそれを掻き消す。
「愚かですよ、勝てない勝負に挑むのは。……オーケストラなんて、みんな愚かだ。」
「NOISEの理想が叩き込まれてるな。お前の大声も、あの理念に当て嵌まるのか?……けど。」


「「オーケストラを、なめるなよ。」」
離れた二点で、新春と快斗の……『シンバル』と『バイオリン』の声が、重なった。

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