ドアが開いて、迷宮が姿を現す。新春が中に踏み込もうとするのを、煌華が肩を掴んで止めた。
何事かと振り返った新春の目に、煌華のその顔が曇っているのが映る。
「念のために聴覚開放してたんだけど……『足音』と『エオルス音』が出てる。」
「……言ったとおり、か。さっきの2人を追うぞ!」
「待ってよ、五黒鍵どもの迎撃も必要だ!」
全員が立ち止まり、煌華の方を見る。その目線に少し戸惑いながら煌華も、数秒考えて頷いた。
「迷宮はソナーで行けるけどビルの中は動きにくい。2人を追うのはシンバルとバイオリンに頼みたい。
 それから牢には見張り番も居たはずだ、秩太はその治療に。初葉は秩太の護衛、兼、五黒鍵の迎撃。
 初葉たちが五黒鍵と遭遇しなかった場合は……僕が此処で、迎え撃つ。」
5人が顔を見合わせ、頷きあう。そして、それぞれの仕事を果たすべく動き出した。


〜Mission Trojan Horse 2〜


「ティンパニ……いや、震羽!」
人の出払った、企画室と書かれた一室。震羽と新春が睨み合う。
「ま、すぐバレるよな。決行の日に限ってスリースピーカ連れてくるとか止めてくれよ。」
「いつの間にか他の連中が居ねェな。人払いはアンタが?」
「応。頑張ってスケジュール調整してよ〜。」
机と椅子を薙ぎ払って、新春の衝撃波が飛ぶ。震羽に触れる直前、弾かれて消えた。
「良いのかよ……このビルに、居られなくなるぞ。」


「吠……と、呼んで良いものかな。」
「良いよ。それが僕のNOISEでの名だからね。」
長い廊下の一角で、背を向けた吠と話す快斗。いつでも攻撃できるように指を構える。
対する吠も、意識を張り詰めて能力を発動できるように整えている。
「裏切った、とか言わないでね。君だって同じことしただろ、『異世』くん?」
わざと、NOISEに居た頃の名前で快斗を呼ぶ吠。快斗が不快そうな顔で吠の背を睨む。
「……そうだな、俺はNOISEでは最高幹部だった。お前では、俺には勝てないぞ。」


「なんで『今日』、アイツらを解放したと思う?」
「残った手下率いてNOISEのリーダーが自ら来るとか?」
初葉と秩太が迷宮を走る。初葉の疑問に答えた秩太の言葉に、2人揃って顔をしかめる。
「捕虜を使って内側から攻撃とか、トロイの木馬かよって話だな。」
「ミノスの迷宮でトロイの木馬?ギリシャ欲張りセットかな?」
苦笑しながら走る2人の目の前に……2つの、影。慌てて2人が止まる。
向こうから、タップ音とエオルス音。どちらも音波で相殺。出てきた依織と跫太郎が舌打ちする。
「何だ、君らか。個人的には、シンバルにリベンジしたかったな。」
「僕もやるなら快斗が良かったな〜。」
「……舌打ちしたいのはこっちだっての。」
「あーあ、こっちに来ちゃったか……ま、仕方ない。」
右手を翳す初葉と秩太。それを見て、五黒鍵の2人も身構える。
「「こっちも、リベンジはしたかったところなんだよね!!」」


「……君は?」
「…盲。ここで牢屋番をしてたんだけど…いきなり震羽さんたちに……」
「それで、怪我も無く出てこれるかな?嘘ならもっとマシな嘘吐きなよ。」
煌華が右手を構える。確かに、盲と名乗った目の前の少年には一切の怪我が見当たらない。
少しだけ困惑したその少年が……突如、禍々しい笑みを浮かべた。
「騙されてくれたら見逃してあげられたのに。」
「生憎だけど、こっちも見逃せないよ。」

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