広い牢の中、跫太郎が両手を縛られて宙吊りになっている。
その隣の牢では依織が両手足に枷を嵌められて座っていた。
「……捕虜虐待はんた〜い、捕虜待遇改善希望〜。」
「ウルサイよ跫太郎。」
「あのねェ、依織はまだ地面だから良いじゃん。ボク宙吊りよ?」
「仕方ないよ、君は『足音』なんだから。逆さ吊りよりマシじゃない?」
2人の会話に、傍で聞いていた看守がため息を吐く。……この余裕っぷりが五黒鍵か。
これで情報も吐かずにタダ飯ばかり食ってるのだから正直始末に悪い。
「…あーあ、つまんない。そういえば、快斗は今頃どうしてるかな〜。」


〜Mission Trojan Horse〜


「へェ、ココがオーケストラ本部ねェ……案外フツーなんだな。」
初葉がキョロキョロと辺りを見回す。ごく普通のビル、人影もまばら。
「知ってるのはシンバルとバイオリンだけだから、知らない人ばかりだね。」
その少し後ろの秩太も呟く。正直、これだけ居たんだ…という感じ。
「実際、無関係の一般人も多いからね。あんまり不用意に喋るなよ。」
2人の前を歩く煌華がため息を吐いた。なんだよ、『タクト楽器店』って。
…そう、ごく普通のビルに会社のテナントとして入っている。
……こんなところにNOISEメンバーを捕らえておいて、バレたら一発アウトだ。
「わざわざそれっぽいトコにそれらしく建てたら見つかりやすいからな。」
「木の葉を隠すなら森の中……という、タクトの提案で数年前に移ったんだ。」
聞き慣れた声に3人が振り返る。通路の向こうに、新春と快斗が立っていた。
「知ったくち利いてっけど、快斗も暫く振りだろ。ずっと潜入任務だったし。」
「久しぶりに中を見回ったよ。新顔も居たが、皆変わりが無くて何よりだった。」
5人がお互いを見て笑いあう。今日は文化祭の振替休日だ。


「にしても、托人には秘密で本部を見学したいとかどういう風の吹き回しだ?」
こっちの企画課は打楽器隊、この営業部が木管楽器隊……と案内をしながら新春が囁く。
「初葉と秩太の希望でね。…前回、事情を説明せずに仲間ハズレにしたのを怒ってるらしい。」
囁きの相手…煌華が同じく小声で答える。それに苦笑した新春が、一つの壁の前で止まった。
「シンバル?」
「実は、本部の各部屋はビルの管理会社には内緒でちょっとずつ縮小・変形してあってな。
 そうして作った『秘密の隠しスペース』が、この壁の向こうにある。」
新春が壁の…少しだけ黒ずんでいる部分に触れる。そこにタッチパネルが現れた。
「指紋認証とパスワードか、なかなか厳重ですね。」
「この奥は一般人には見せられないモンだらけだ。…牢もあるしな。」
「牢?……あぁ、捕らえたNOISEがここに居るってわけだ。」
「中は入り組んでてミノスも真っ青の迷宮だ、逸れるなよ。」
「テセウスは運命の赤い糸を結んで帰ってくるんだったっけ?下らないね。」
煌華の言葉に苦笑しながら、新春がパスワードを入力する。壁の一部がスライドし、ドアが現れた。
「こっちは網膜認証。幹部クラスしか登録されてねェから新入りには使えねェ。」
新春が放った言葉に、スリースピーカが驚愕する。
「「「………シンバルって、幹部だったんだ。」」」
「全員でハモってんじゃねェよ!」
「オレがNOISEに潜入することが決まったとき、このシステムを採用した。理由は判るな?」
「同じことをNOISEがして来ても大丈夫なように、だろ?」
「けど、貴方も五黒鍵まで登りつめた。…幹部クラスにNOISEの手が入ってない保障はないですね。」
快斗の言葉を受けて、初葉と秩太が返す。実際、まだ穴がありそうな防犯システムだ。
もう一度新春が苦笑して、カメラに目を近づける…前に、向こうからドアが開いた。
「あり?震羽さん、吠、何してんの?」
「聞きたいことがあったんだが、相変わらず口を割らん。」
出てきた2人に新春が声を掛ける。背の高いほうの青年が答えて、2人とも行ってしまった。
「……誰だったの?アレ。」
「打楽器隊の隊長のティンパニ震羽さんと、木管楽器隊のオーボエ吠。」
「愛想が悪いのは勘弁してやってくれ。あの人たちはスピーカ反対派だったからな。」
ふぅん、とスリースピーカが、2人の去って行った方に目を向ける。
その様子に軽く笑って、新春が前に向き直った。
「依織も跫太郎もココに居る。さぁ、地獄を見学に行こうぜ。」

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