生まれてきてゴメンなさい。
生きてきて、ゴメンなさい。


〜ガードレール〜


「すみません、遅くなりました。」
「おうイッキ、おはよう。珍しいな、イッキが遅刻なんて。」
従業員用の裏口から入ってきたイッキに、休憩室に居たユーセーが声をかける。
そして突如、ロッカールームに入ろうとしたイッキの右腕を掴んだ。
「……ゆ、ユーさん?」
「遅刻の原因はそれか?何も無かったとは言わせねェぞ。」
ユーセーが指差した先を見れば、包帯を巻いた自分の左腕に行き当たる。
「…ユーさんって、鋭いですね。ちょっとケガ、しただけですよ。」



「……ユーセー、今日はどうかした?イッキ君が出勤してきたあたりから無口だけど。」
終業後。ユーセーの自室。マグカップを差し出しながらロンが問う。
「いや……ケガの理由、教えてくれなかったんだよ。」
「心配かけたくないんでしょ、イッキ君だもん。」
マグカップを受け取りながらのユーセーの答えに、ロンが苦笑する。
視線を移すと、窓の向こうに曲がったガードレールが見えた。
「……そういえば、今日は事故があったんだっけ。」
「あー、客が話してたな。車が横断歩道に突っ込んで、ガードレール直撃。運転手は骨折ったって。」
「横断歩道に…って、人を撥ねたの?」
「1人な。ボンネットに乗り上げてほぼ無傷らしいけど。」
ユーセーが窓に近付く。ロンが少し避けると、そこから窓の外を見た。
そこに、ノックの音が響く。ドアが開いて、店長が入ってきた。
「ロンに明日の仕込みの話なんだけど…窓開けてどうしたの?」
「今日の事故の話。店長も聞いた?」
「イッキが撥ねられたらしいわね。」
ユーセーとロンの動きが、止まった。それを見て、店長がため息を吐く。
「…ああ、2人には話してなかったかしら。イッキの、体質の話。」


「「無事故体質?」」
「すごく事故に遭いやすいけど、いつも無傷や軽傷で済む…らしいわね。」
「…そうだ、確かイッキに初めて会ったのは……!!」
ユーセーが記憶を辿る。あの雨の日、イッキが立っていたのは……
「じゃあ何?イッキ君の周りはいっつも事故が起こるって?そんなの…」
「……イッキは怪我しないけど、事故に巻き込まれた他の人は怪我もするし、最悪
店長の言葉が、ユーセーが壁を叩く音に遮られた。ロンがユーセーを振り向く。
「イッキは優しいから、きっと事故のたびに自分を責める。それを抉って……最低だな、オレ。」
「確かに、知らなかったことは免罪符にならないけど…それでも、ユーセーは悪くないよ。」



深夜。曲がったガードレールの傍に、イッキが居た。他には誰も居ない、誰も通らない。
「…オレの体質の所為で、また1人誰かがケガをした。オレが居なければ……!!」
イッキがガードレールに触れ、そしてそれを握り締めた。
「ここに居てゴメンなさい。生まれてきてゴメンなさい。生きてきて……ゴメンなさい。」

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