それは、あくまで記録であって。
それは、けっして記憶ではない。


〜メモリーカード〜


「モミジ、オレ休憩時間だからしばらく頼むな。」
「年中休憩みたいなものですけどねェ…」
モミジからの返答に苦笑して、ユーセーが休憩室に消える。
その背中を見送って、モミジがため息を吐いた。
「……どーせ、休憩室でも知恵の輪やってるくせに。」
厳しいツッコミ。確かに、フロアに居ようと休憩室に居ようとやってることは変わらない。
少しだけ肩をすくめて、物品補充でもしようかと踵を返す。
その直後、ドアに備えられたベルが小さく響いた。
「いらっしゃいませ!空いてるお席へ…どう、ぞ……」
「…アレ、奇遇だな。4年ぶりくらいだね、久しぶり!」
「…ええ、お久しぶりですね……マスター。」

「で、何か御用ですか?」
「やだなぁ、食事に来ただけだってば。今日は高校の文化祭に行って疲れたからね。」
座ったまま少しだけ伸びをする、マスターと呼ばれた青年。モミジがため息を吐いた。
「…それでは、ご注文がお決まりでしたら「高校は卒業したんだっけ?」
立ち去ろうとした背中に声をかけられた。何度目か判らないため息を吐いて、再び振り返る。
「私立聖命学園高等部を。」
「そっか。アイツらは市立の霜天高校に入れたよ。」
マスターの言葉に、ちくりと痛みを感じる。…それは、嫉妬なのかもしれない。
「もう実用段階に入ってたんですか、例のスピーカーたちは。」
「君たちのお陰だね、カメラ。……スクラップ扱いしたのを、うらんでる?」
「このスピーカはボクの夢だ。その夢を叶えるために、君を造った。」
「…最初から、判ってたことです。」


「で、休憩中のオレを呼び出した理由はアレかよ、ロン。」
「さっきから話し込んでるから、一応ね。モミジさんが話し込むなんて珍しいけど。」
こっそり、モミジの様子を覗くユーセーとロン。出歯亀なのは気にしない。
やや遠いためにボソボソとしか会話が聞こえないのがもどかしい限りだ。


「覗かれてるね。けど、好奇よりも心配が強い。良い友達を持ったね、カメラ。」
「…今は、牧野紅葉です。」
「ああ、ゴメンゴメン。……君に、コレを渡しておくよ。」
小さなチップを取り出し、手渡す。そしてメニュー表に目を落とした。
「メモリーカードの拡張チップだよ。そろそろ記憶力が無くなる頃だと思ってね。」
「君のは記憶力じゃなくて記録容量の問題だよ。だって、もうヒトではないんだから。」


「もうちょっと聞こえねェかな?」
「あんまり盗み聞きするのも良くないと思うけど…」
ロン、まさかの正論。しかしそれを聞き入れるユーセーではないのが悔やまれる。
反論をしようとユーセーがロンを振り返った……瞬間、力いっぱいテーブルを叩く音が響いた。
「今さら優しくすんなよ……帰れ!僕は、人間として生きたいんだ!!」

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