昇る紫煙に、目を細める。
残る気持に、目を逸らす。


〜マルボロ〜


「ジュゲムさん、死にますよ!!」
「来てすぐ何だよお前は……」
バンッ!と入店と同時に死刑宣告をするイッキ。
とりあえずそれを右から左に受け流し、更衣室に押しやるジュゲム。
……数分後、きっちり制服に着替えたイッキが更衣室から飛び出してきた。
「で。ジュゲムさん、死にますよ!タバコやめてください!!」
「ハタチ過ぎてるし文句言われる筋合いねェな。」
「ジュゲムさんは16の頃から吸ってるじゃないですか。」
イッキくんおはよう、と挨拶しつつ爆弾投下していくロン。
ジュゲムが顔を背けると同時に、イッキが詰め寄った。
「ジュゲムさん、今ロンさんの仰った事は事実でしょうか?」
「……事実だけど。高校の先輩から貰ったんだよ。」
「タバコを?!どんな先輩ですかその人!!後輩の健康も考慮しないなんて…」
「あ〜……秘密。」


「……痛ェ。」

「当ったり前だろ。痛くなきゃ殴った意味がねェ。っつーわけで、寝言は寝て言え。」
目の前で、ヒラヒラと手を振る俺の先輩……松田緋色。
この度、まったくおめでたくないことに高校中退が決定した。しかも自分の意志で。
「寝言じゃ無ェよ!!なんで緋色センパイが高校辞めなきゃなんないンスか!!」
「弟たちがやりたいこと、『金が無ェから駄目だ』なんて言えねェだろ〜?」
「だからって!なんでアンタが無理しなきゃならないんだよ!!」
シュッ…! と、フリントホイールの回転音が俺の言葉を遮った。
緋色センパイがタバコに火を点け…そのまま灰皿に置く。

「……臭ェ。」

「そうか?マルボロだし、そこまで強い匂いじゃねェと思うんだけどな。」
「センパイの鼻がおかしいンスよ。…っつーか、まだ未成年でしょアンタ。」
俺の言葉に苦笑だけで返す緋色センパイ。
そのまま、そのタバコの箱とライターを俺に投げ付けてきた。
「…緋色センパイ?」
「やる。このアパートも…月末まで契約は残ってるけど、俺は実家に戻るから。」
「……アンタが居ないのに、ココに来る意味なんてねェよ。」
苦笑するセンパイが、泣きそうに見えたのは……気のせいじゃないと思いたかった。

「お前は、俺の分まできっちり卒業してくれな。」
センパイが部屋から出て行く。……灰皿のタバコを咥えてみる。涙は、出なかった。

「……苦ェ。」



「……安心しろイッキ。お前にタバコは吸えねェだろうから。」
「吸いませんよ!ヒィ兄じゃあるまいし。」
「…そうか、そりゃあ良かった。」

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