肺が煙に、満たされても。
心は常に、満たされない。


〜合法ドラッグ〜


「ロ〜ン、8番テーブルにゴマ団子1つ〜。ってジュゲム、厨房でタバコ吸うんじゃねェよ。」
ユーセーが厨房を覗く。返事をしてすぐに準備するロンと、ため息を吐くジュゲム。
ジュゲムがケータイ灰皿にタバコを押し当てて、そしてユーセーに向き直った。
「フロアで知恵の輪が良くて厨房でタバコが悪い理由を聞かせてもらいたいな、フロアチーフ。」
「うっ…た、タバコは健康にも悪いし家計も圧迫するんだぞ!!」
「知恵の輪の買いすぎで給料使い果たした誰かさんに言われたくないな。」
ジュゲムの言葉に、反論する言葉を見失うユーセー。…事実とは鋭い刃だ。
「それぐらいで使い果たせるほど安月給のウチで働いてて、よくタバコが買えるよね。」
それに苦笑して助け舟を出すロン。話題転換に多少の無理は仕方が無い。
「食費は賄い、家賃はボロアパート、服は着回し、交友関係はこの店だけ。どこで金を使えと?」
「うわ、確かに全く金を使わねェ…っつーか使えねェ生活だな。」
「高校時代の人と遊びに行ったり…するタイプじゃないか。」
ゴマ団子を器に盛りながら呟く。それを受け取ったユーセーが、苦い顔でフロアへと消えた。


「タバコのことか……少しだけ訊いても良い?ジュゲムさん。」
8番テーブルの客も帰り、皿も洗い終え、仕事の無くなったキッチン。
ロンの言葉に、再びタバコに火を点けていたジュゲムが振り返った。
「先輩から貰ったって言ってたよね。じゃあ、今も吸ってるのは……その先輩が、特別だから?」
ロンの瞳が、ジュゲムを射抜く。ジュゲムが少しだけ口元を歪ませた。
「イッキの無事故体質を知って、人の過去が気になりだしたのか?」
「ジュゲムさん、イッキくんの体質のこと知ってたの?」
「先輩に、そういう弟が居るって聞いてたからなァ……そうだよ、あの人は特別だ。」
フロアから入ってこようとしたユーセーが、ジュゲムの語調に歩を止める。
直接その言葉を聴いているロンには、それ以上の衝撃があった。
「松田緋色。イッキの兄貴で、俺の先輩。…俺の人生の、唯一最大のタブーだ。」
煙を、吐き出す。ジュゲムの顔がその煙に隠れ……

「ほら、詮索すれば深みに嵌まる。お前らコンビの、悪い癖だぞ。」
晴れたときには、いつものジュゲムだった。

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