その日まで、オレの世界はモノクロだった。
その日から、オレの世界はカラーになった。


〜クレヨン〜


「ユーさん、ここって画材とか無いですよね……」
「飲食店だしなぁ。なに、なんかあったの?」
「美術の授業で必要なんですけど、ウチに何も無いんですよ。」
そう言ってレジで項垂れる、イッキ。
それを見てユーセーが、知恵の輪で遊ぶ手を止めて小首を傾げた。
「それ、何でも良いの?」
「ええ、画材は自由だそうです。」
「ふーん、それなら……店長!2階にある私物で何か渡していいモンとかない?」
ユーセーがキッチンの方へ声を掛けると、店長がカウンターからスッと顔を出した。
ちなみに2階は住み込み店員のための居住スペースになっている。
「確かクレヨンが有ったはずよ。」
「あー、黒板アートやってみようって話のときにチョークと間違って買ってきた奴か。」
「ユーセー、探して持ってきてあげなさいな。お客さん来たら呼ぶから。」
店長の言葉に頷いて、ユーセーが裏に向かう。
残されたイッキが、店長に深々と頭を下げた。
「すみません、ありがとう御座います!」
「いいのよ、どうせウチにあっても使わないんだから。クレヨンで良かった?」
「はい!……オレ、カラフルなの好きですよ。」


黒いアスファルト、白いチョーク痕。

今日の事故は、細い路地で…バイクに跳ね飛ばされた。
幸い、オレの方は近くの家の植え込みに落ちて、無傷だったけど。
……バイクの運転手は、路地を滑って電柱に激突した。
近くの家の誰かが、警察と病院に連絡したらしい。
オレは、一応の検査のために病院に送られて。
…バイクの運転手は、頭を強打して、亡くなっていた。
病院から帰ってきたオレは、その現場に行ってみた。

見慣れた、モノクロ。

雨が、降り出した。もちろん傘なんて持ってないけど。
…チョークの痕が流れないかな、なんて考えてみる。
「おい!こんな雨の中で何やってんだよ!!」
…誰?モノクロの世界に、誰かが入ってくる。
その人は、オレに傘を差し出して…そして手を取った。
「タオル出すから店まで来い!風邪引くぞ!!」
モノクロの世界でその人は……その人の耳には、紅。

連れて行かれた先は、色とりどりで。
色々な色の人が、オレに話し掛けて、オレを見てくれた。

モノクロの世界で、ここだけは綺麗カラーだった。



「……店長。オレ、この店で働けてホントに嬉しいんです。」
「クレヨンひとつで大袈裟ね、イッキ。」
「いいえ、だってこの店は、カラフルだから。」

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